『兄弟』

 このくらいの年になると、友達の家で遊ぶというより、カラオケやゲーセンなどに足を運ぶことが多い。故に、友達の家族に会うということもしない。
 だから、驚くのだ。
 兄弟のいなさそうなイメージの人間に、それがいると。


「あれ、杉山?」

 学校のない日曜日、家に適当なお菓子がなくてコンビニへと繰り出していた忍。コンビニには最近出た新商品が並び、少し無駄使いをしてしまった。今月残された金額を見ながら、どうしようかと悩みながら出てきたところ、忍は見知らぬ少年を連れた杉山に出くわした。

「あぁ、忍か。お前もお遣いか?」
「いや、俺は自分のお菓子を買いに。……それより」

 その子は?忍は少年と目を合わせながら、問い掛ける。目が大きくクリクリしてカワイイ。身長はそのくらいの子にしてはなかなかでかい。真ん中にどんとポップな車のイラストが書かれた赤いパーカーとジーパンを着ており、なんといっても爽やかに靡く髪は杉山の髪にそっくりだった。
 が、忍の記憶には杉山の家族構成なんて入っちゃいない。じゃあ一体この子は誰なんだ?忍の脳内には変な妄想が広がり、ついにはある答えに辿り着いた。

「お前、時々ミステリアスだから、いつかは誘拐でもするんじゃないかと思ってはいたけど。いや、本当にやったら犯罪じゃないか」

 早く親御さんのところに返しておやり。いつになく変な口調で、忍が杉山に言うと、呆れた表情で彼は「ちょっと待て」と口を挟んだ。

「……歩は弟だ」
「そう弟なら早く……って、弟?」
「あぁ。今年六歳になる弟の歩だ。歩、挨拶しろ」
「はじめまして、すぎやまあゆむです。いつもあにがおせわになってます」

 ぺこりと礼儀正しくお辞儀をする少年歩に、思わず「あぁご丁寧にどうも」と忍は返す。そう言われれば、さっき忍自身も思っていたが、髪のさらさら感は兄と全く変らない。それにこの礼儀正しさ。きっとこれは家系的方針でこうなるんだろう。と、忍は勝手に思っていた。

「というわけだ。お前が考えたみたいに俺は誘拐なんかしない。分かったか?」

 最後の方はニヒルな笑みを引き連れて顔を近付けてくる杉山に、忍はたじたじになりながら頷くと、荷物を持ち直した杉山はあいてる手で歩の手を握り、帰るから。そう言い、忍の横を通り過ぎる。
 しつれいします。通り過ぎた後から歩の声が聞こえる。振り向いて忍は手を振り二人が見えなくなるまで見送ると、なんだか妙に気疲れして肩を竦めた。

「こんなに長く一緒にいても、新たな発見ってあるもんなんだな」

 早速、草介にも聞いてみよう。忍はそんな事を考えながら自分も帰路に着くのであった。


09.03.06 UP

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