『ヒーロー』
オレ、見ちゃったの。 朝早くて、いつもなら降りる駅まで爆睡している電車の中。 満員でぎゅうぎゅうになってて、吊革に手をかけてオレの前に立ってる女子高生から零れる涙を。 怖くて声も上げれず、ただ自分の降りる駅まで我慢しようとして唇が真っ白になるまで噛みしめてる女子高生。見覚えのある制服は自分の通っている所と同じ。その最寄りの駅まではあと三つはある。 オレは自分の見える範囲から、その子に手を出しているであろう奴を探し出す。すると、彼女の斜め後ろで微かに下を俯きながらにやにやしている男が一人。 「いた……」 犯人に目星をつけると、オレは制服のズボンから携帯を取り出し、新規メール画面にメッセージを打って目の前の彼女に合図を送る。 『そのまま、もうちょっとだけ我慢しててくれる?』 メールを読んだ彼女は、オレの方を見ると、助けてくれると分かってくれたのか、小さくこくりと頷いた。 それを確認したオレは、彼女に優しく微笑みかけて、清々しい登校を妨げる奴の手をひねりあげた。 「君っ!何をするんだ」 「それはこっちの台詞だよ。あんたこそ、朝っぱらから女の子に痴漢して何が楽しいの?」 皆さぁん、こいつ痴漢ですから近づかないでくださいね。車内に聞こえるように言うと、満員だっていうのに、痴漢野郎とオレのいるところから人が離れていった。 「へ、変な言いがかりは止めたまえ」 「そういう弁解は警察の前でしてください。というわけで、駅についたことだし」 では、行きましょうか。オレは痴漢野郎を引っ張っていきつつ、被害にあった子を連れていった。 「ってわけで遅刻したんだよ。……全く男の風上にもおけないよねぇ」 と、昼休みに望っちと忍に説明していたわけなんだけど、話にオチがついたところで忍がぐっと顔をオレに近づけた。 「ち、近いよ。忍」 「で?」 「……で?」 「その女子高生とはどうなった?」 「どうなったって……」 「その子、ここの学生なんだろ?その子のメルアドとか聞かなかったのかよ!」 「あぁ……」 実際のところ、オレの携帯の中には今日助けた女の子のメルアドと携帯番号が入っている。もちろん、彼女の方にも。ついでに言ってしまえば、次の日曜に遊びに行くって約束もした。けど……。 「なんもなかったよ。っていうか、それどころじゃなかったし」 言ったらこっそり跡をつけられたり、彼女に迷惑を(主に忍が)かけるかもしれない。そうなったら、彼女が可哀想。 展開がなかったと言ったことにがっくりとうなだれる横で、望っちがオレの嘘に気付いたようだけど、目で『忍には言わない』と言っていたので安心した。 さぁ、オレはオレのできることをしようかな。 09.03.03 UP |
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