『鼻血』

 新学期から約一ヶ月が経ち、季節も肌寒い春から、暑い夏に向けて移り変わる頃。そんなある日の休み時間、いつもの三人は移動教室のために滅多に通らない三年のいる階の廊下を歩いていた。

「一階しか違わないのに、かなり雰囲気が違うよね」

 ポッキーを口に銜えながら三年の教室をのぞき歩く草介が言う。確かに、三年の皆様はなんというか大人の色気というものを持っている方が多い。三人と共に勉強をする二年にはあまりそういうのが見られない。

「俺らが三年になったら身に付くだろ」

 草介の言葉に杉山はそう言っていたが、話を聞いていた忍はそうは思えなかった。まだ経験していないからだろうか、たった一年という歳月だけで今のメンバーが、教室の中にいる先輩方のようになるとは考えられない。

「ってか、そうなるなら今からでもなってほしいもんだよ」

 忍はそう言い、二人の先を歩く。かわいい女子も確かに魅力的だが、どうせならセクシーな女子がいてくれた方がこっちも毎日が楽しみというもの。うはうはしながら授業だって真面目に受けちゃうぞ、なんて振り向いて後ろの二人に行っていたら、背中越しに誰かとぶつかって忍は盛大にこけてしまった。
 慌てて助けに行く杉山と草介。が、次の瞬間、忍の倒れている様が直視できず、二人とも目を逸らしてしまう。
 当の本人である忍は、こけてしまった拍子にぶつけたお尻をさすりながら立ち上がる。その時に、後ろにある何かに触ったのを感じながら。

「っ……ててて。…………あ」

 忍が触っている手の先、スカートからのびた綺麗な足を見て、忍は体中の血の気が引いた。
 そこにいたのは三年の女子で、しかも学校内でトップ5に入るほどの美人。

「す、すいません。し……失礼しましたぁ!」

 一目散に逃げ出す忍。それを追いかけた二人は、足元に点々と続く赤い印に、呆れ顔を隠せなかった。

「鼻血……」
「見られたくなかったんだね」

 哀れな男だ。

09.03.03 UP

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