『もう少し……。』

 歌が聞こえる。
 小鳥のさえずるようなその声に、導かれるかのごとく屋上へと歩みを進める。
 扉の隙間から届くその声を止めないようにゆっくりと開けると、思った以上に蝶番が錆びていて大きな音がなり、ふっと歌声が消えた。

「びっくり……した」
「ごめん。おどかせる気はなかったんだけど」

 扉を閉めた忍が頭をかきながら、歌っていた女子生徒ーー都の隣に来ると、フェンスに寄りかかって腰を下ろす。

「続けて」

 目を閉じて恥ずかしがり屋な彼女に負担をかけないようにする忍に、都はそれでも恥ずかしさを拭いきる事はできなかったけれど、聞いてくれるならばと続きから歌い始める。


月明かりがボクらを照らすよ

暗い闇から救ってくれた

君がいるからボクは頑張れる

愛しい君が応援してくれるから


 柔らかな声とその中に強く響く彼女の想い。まだ彼女の想いを知らない彼には、それはどう聞こえたのだろう。一呼吸おいて忍の隣に座ると都はぽつりと呟いた。

「下手じゃ……なかった?」

 自分で作った曲なの、と続けて言うと、忍はうっすらと目を開けて答える。

「すごく綺麗で想いのこもった曲だと思う。……俺好きだな」

 にぃっと笑う忍の笑顔に、一気に赤面する都。
 ぷいっとよそを向いて、その顔を隠すと、隣から小さくかわいいと呟かれる声。

「か……かわいい?」
「うん。すっごく初々しくて輝いてて、かわいい」

 ゆっくり近づく忍の顔。初めてのことで動けなくなってしまった都はかろうじで、見開いていた目を閉じて、肩に置かれた手に震えてしまう。
 忍の吐息が都の頬に触れる。もうあと少しで都のファーストキスが忍によって奪われてしまう。

 ーーその時だった。

「忍っち!探したっての。もう本当今日は皆で遊びに行くって……何してんの?」

 けたたましい音をたてて開かれた向こう側から草介が入ってきた。
 おかげでおどろいた都は信じられないくらいの早業で忍をつきとばし、そんなことになるとは思ってなかった忍は、強かにコンクリートに頭をぶつけてた。

「あ……えと……、ご、ごめんなさいっ」

 キスされそうなのを目撃され恥ずかしさでいっぱいになった都は、草介の横を駆け足でさっていく。痛みに悶える忍と頬を指でポリポリかく草介の2人を後から来た杉山は何かを察し、持っていた本を閉じた。

「けものめ」

 その瞬間、めいいっぱい忍が抗議したのは言うまでもない。

「俺の青春を返せぇ〜!」

 いつこの2人はくっつくんだろう。



09.06.22 UP

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