『窓際の君。』

 彼女に会ったのは、二年になってすぐ。図書委員として、本の整理をしていたときのこと。

「そこは座るところじゃないんだが」
「! ……ごめんなさい」

 図書室の隅っこ、医学書や辞書などが並ぶ窓のすぐ下にある低めの本棚に座り、そこから見えるグラウンドを眺めていたのを注意したのが始まりだった。
 彼女の名前は森園都。二年になって同じクラスメイトなった女子生徒で、彼女の出席番号が忍のすぐ後ろだったので、名前だけは認識があった。

「いつも、そこにいるのか?」

 本を片付けながら、窓の側から離れようとしない彼女に話しかける。彼女は、話しかけられるとは思っていなかったらしく、目を泳がせながら、こくんっと一つだけ杉山に見えるように頷いた。杉山は毎日、こんな隅っこの窓から何を見ているんだろうと片づけていた手を休め、自分も外を見る。外には、活発な生徒達がバスケやサッカーを楽しんでおり、その中には草介や忍の姿も見受けられた。

「よくやるよなぁ、あの体力バカ。次の授業体育だってのに」

 と、杉山が忍のことを見ていると、不意に隣にいた彼女がびくっと体を震わせ赤面する。何事だろうかと、杉山が首を傾げれば、消え入りそうな声で「でも、かっこいいよ……?」と呟く。
 その瞬間、杉山は内心「あぁ」と、彼女がここから眺める人物とその意図に気付いた。

「忍のことが好きなのか?」

 自分の中で結論が出てすぐに口に出したものだから、直球で問いかけてしまい、まずいと杉山は内心思って彼女を見たが、恥ずかしがりながらまたこくんっと頷くだけで、傷ついている様子はなかった。
 それを見て安堵した杉山は、なんだか彼女のことが気になってもう少し問いかけてみようかと考える。別に、彼女に対して恋愛感情が生まれたとか、そういうものではなかったが、自分とよく一緒にいる人間のことを好きだという彼女に、彼はどんな風に見えるのだろうという興味が湧いたのだ。
 杉山は、窓の向こうを見ている彼女に、そのことを伝えると、杉山君になら教えてあげる。と言い、ぽつりぽつりと喋りだした。

「最初はすごくね、爽やかでかっこいい人だなぁって思ったの。スポーツ万能で、ムードメーカーで。でも、勉強はちょっと苦手で、杉山君とか富永君とかに教えてもらってたり。たまにちょっぴりいやらしいことも言ったりするけど、すっごく友達思いで……良い人」

 楽しそうに、好きな人のことを話す彼女を見て、あぁ……女子ってこんな風に綺麗に微笑むのか。なんて、思わず文豪みたいなことを思ってみる。

「そんなに好きなんだな」
「うん」

 屈託のない笑みで頷く彼女に、幸せが訪れればいい。そう思った。



09.04.04 UP

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