『好み』

 好みは人それぞれにあるもので、それが異性の好みであれば、極めて好きなところがあるのは当然である。
 テストも一段落ついたある雨の日。暇つぶしと称して女の子の好みについて忍と草介が話に華を咲かせていた。

「俺は絶対胸だな。豊満なバストに埋もれてぇもん」
「それより腰の曲線美でしょ。美術的だし、女の子らしいし」
「女はやらしさがあってなんぼだっつぅの。腰だけ見ても反応するもんも、反応しねぇっつぅの」
「忍っちはそっちにしか考えられないわけ?」
「女は魅力を感じてもらってるって思われねぇと悲しいんだぜ? お前加奈子ちゃんとまだだろ? かわいそうになぁ、まだ食べてもらえなくて」
「今、加奈子ちゃんは関係ないでしょ?」
「あ、怒った? ごめんねっ」
「忍っち許すまじ!」

 失礼。華は咲いていなかった。
 最初は楽しい好みについて話していた二人だったが、忍が草介の加奈子を下ネタで話題に出したために草介が怒り、喧嘩が勃発してしまった。
 机や椅子を倒し、取っ組み合いの喧嘩に発展した二人。クラスメイトの男子数名が二人の間に入ろうと試みるが、二人の力に弾き飛ばされてしまう。こうなってしまうと、この喧嘩を止められるのは、ここにいない二人の友達だけ。
 クラスメイト達は、教室の端でとばっちりを食らわないようにしながら、その友達が早く帰ってくることを祈った。


 取っ組み合いが始まって二十分が経った。
 綺麗に並べられていた机たちは二人によって見事に倒され、その中央ではまだ醜い喧嘩が繰り広げられていた。
 と、そこへ図書室へ行っていたらしい、彼らの友達が帰ってきた。友達はクラスメイトから事情を聞くと、呆れた様子で二人を見、近付いていく。
 その気配に気づいたのか、二人は今まで誰が入ってきてもやめなかった喧嘩を止めてそちらを向くと、掴みかかってくるのではないかという勢いで、友達に問いかけた。

「杉山(望っち)の好みは何?」
「尻」
「え?」

 すごい形相で言う二人に、間髪入れず答える杉山。しばらく固まっていた二人は、ゆっくりとお互いを掴んでいた手を離し、杉山の方を向くと、改めて同じ質問をした。

「好みは?」
「尻だ。なんだ、二人とも耳が遠くなったのか? まぁいい。早くくだらない喧嘩は止めて、机と椅子を並べろ。後十分で午後の授業が始まる」

 そう言って自分の机と椅子を起こして平然と次の授業の準備をする杉山に、暴動を起こした二人はもちろん、クラスメイトも『参りました』と思わずにはいられなかったのはここだけの話ということで。



09.03.23 UP

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